一澤帆布、製造休止

 先日もエントリーした、京都の帆布専門カバン店、「一澤帆布」の相続問題。


 事の起こりは各種報道によれば、「一澤帆布」の先代、信夫氏が2001年に死去なされたあと、信夫さんの三男で現在のブランドを確立した信三郎さんと、それまで経営に携わってはこなかった長男信太郎さんとのあいだで信夫さんの遺言書をめぐって争いがはじまったことが原因だそうです。
 遺言書は2通あり、結果、京都地裁側は信太郎さんの主張を認める形に。それに納得できない信三郎さんと従業員の方々は、製造部門であった子会社「一澤帆布加工所」にほぼ全員籍を移し、これまでと変わらない体制を維持しようとしたそうです。つまり、今「一澤帆布」と名のつく会社は


のふたつあり、それ以前のようにカバンの製造、販売を行っているのは信三郎さんの「一澤帆布加工所」のほうで、信太郎さんの「一澤帆布工業株式会社」は実体のない会社となっているようです。

 ところが信太郎さんはこれを不服とし、京都地裁に工房の明け渡しを求めて提訴、認められました。その明け渡しが明日3月1日行われます。
 ミクシのコミュニティでは今日の午後まで通常通り購入できた旨の書き込みがあり、このまま現状が維持されるのではと私は楽観視していたのですが、先ほど「一澤帆布加工所」のサイトを見たところ製造休止と今後についてのコメントが発表されていました。

 前回もご報告いたしましたが、一澤帆布工業株式会社 代表取締役 一澤信太郎氏の申し立てによる、工房明け渡しの仮処分を京都地裁が認め、3月1日午後2時に強制執行されることになりました。これにより「一澤帆布」の製造部門である一澤帆布加工所は、立ち退きの準備に入らざるをえなくなり、現在一切の商品の製造を休止しております。

 やはり製造自体はストップしていて、これまでの在庫を販売していたようですね。

 これまでにご注文いただいたお客様へは、できる限りお約束の納期内での発送を目指しておりますが、万一現在の休止状態が長引くようなことになれば、昨年 12月以降にご注文いただいたお客様の一部には、ご注文をお断りしなければならない可能性も出てまいりました。
 私たち一澤帆布加工所は、そのような事態を避けるため、一刻も早く製造が再開できるよう新工房の確保に全力を尽くしておりますが、製造再開までには今しばらくの時間が必要な状況にあります。

 「一澤帆布」はそもそも顧客の注文を受けてデザイン→手作業で製作をする工房で、レディメイドの大量生産品ではないところがその魅力でした。その工房を手放さざるを得ないというのは、大きな痛手なわけです。加えて、

 さらに新聞報道にもありましたように、信太郎氏からは商標の使用差し止め、という申し立ても出されている模様です。その申し立てまでを裁判所が認めることになれば、加工所では以降「一澤帆布製」のタグの使用、さらに「一澤帆布」の名称の使用が不可能になる恐れがあります。

というように、「一澤帆布加工所」製作のカバンに「一澤帆布」のブランド名をつけられなくなる恐れも出てきたようです。


 あの「京都市東山知恩院前上ル 一澤帆布製」のタグは、カバンの実用性と堅牢性、それに伝統を示すシンボリックな意味合いが大きかっただけに、使用不可となってしまうと信三郎さん側はブランドとして一からやりなおすことになってしまいます。
 これまでと変わらない良品を信太郎さん側の「一澤帆布工業」が作ってくれれば、顧客としては納得できなくもありません。ところが、これまでカバンを手作業で生産してきた職人さんは信三郎さんの「加工所」の方にいます。これまでのような良品が作れたとしても、それはこれまで作ってきたのとは違う人が作るわけで、少なくとも私はいくら形や色、タグが同じものでもそれを「一澤帆布製」と考えることはできません。


 ですから、もし商標停止となって、新ブランドと新「一澤帆布」ができたとしたら、私は新ブランドのカバンを購入するでしょう。さらに一切顧客に対してアナウンスメントをしていない信太郎さん側と対象的に、信三郎さんら「加工所」の方々は事態の推移を自分たちの立場で説明しています。さらに今日のコメントでは、

一澤帆布加工所は、工房の移転に伴い、これまでの「一澤帆布」での業務を継続するための新ブランドの設立も視野に入れた、今後の販売のいろいろな可能性を模索しております。今の時点ではっきりしたことを申し上げることはできませんが、お客様へのご迷惑が最小限に留まるよう、さらに努力をしていきたいと思っております。

と顧客第一の姿勢を示してくれているので、これまで「一澤帆布」で購入した製品の修理等も、工房が落ち着けばまた受け付けてくれそうです。


 とにかく、あの職人さんたちが作る、一本一本の糸に心をこめた、丈夫でシンプルなカバンが私は好きなのであって、名前は「一澤帆布」でも工場で大量生産されるようなカバンを買うことはこれからもありません。