一澤帆布製カバン、幻へ

 夕刊フジのサイト、ZAKZAKに、工房明け渡し関連のニュースが載っています。

 先代信夫氏の長男信太郎さんが、今日の午後2時付けで工房と知恩院前の販売店の実質的な所有者となったわけですが、

 信太郎氏は「(信三郎氏の)新ブランドがすぐ売れるとは限らず、従業員の生活を保障できるとは思えない。従業員が戻ってくれば受け入れる。ただ、現状ではすぐに以前と同じ品質の商品を作るのは難しい」と話している。

ZAKZAKによればおっしゃっていて、明日以降の販売がどうなるのかも今のところ不明です。
 ミクシの一澤帆布コミュでは、会社に直接電話したところ「新しいカタログを送ります」と言われた方もいらっしゃるようですが、それが新経営陣主導の新しい、「一澤帆布製」カバンのカタログかどうかはスレを見ている限りわかりませんでした。信太郎さんがZAKZAKにおっしゃっているように、職人さんはほぼ全員信三郎さんのほうについていってしまったようですし、なによりZAKZAKによると、

 また、かばんの生地を納入していた大阪市内の帆布加工会社も信太郎氏側とは取引をしないことを表明している。

とのことなので、あらたに帆布の仕入先を確保しなければならないようです。原料の帆布自体がこれまでのものと変わってしまうのならば、どんなに商標権を確保して「一澤帆布製」のタグをつけたとしても、もうそれはこれまでの「一澤帆布」カバンではありませんね。


 一方、ZAKZAKは信三郎さん側の取材もしていて、

「商標権が『工業』にあるので『一澤帆布製』のロゴの入ったかばんは作れなくなる。新ブランドの立ち上げのため、現在は東山区内で拠点を探しています。4月中には新ブランドの販売開始のめどをつけたい」

とのこと。これまでカバンを作られてきた職人さんたちも東山という土地を離れることはなさそうで、あくまでこれまでの「一澤帆布」のDNAを継いだカバンがいい!というお客さんは、うまくいけば4月には新ブランドのカバンを購入することができそうです。


 ただこの件を追いかけていて思うのは、信太郎さんも信三郎さんもちょっとお客さんを置いてきぼりにしていないか、ということ。
 私はこれまで4つほどしか一澤帆布でカバンを購入したことことがない、いわばライト・ユーザーです。地方に住んでいますので、オーダーメードも頼んだことがありません。ですから顧客名簿にその名前が載っていることもありません。
 ただここ何年かの「一澤帆布ブーム」と、それを牽引力にした「帆布カバンブーム」は私のようなライト・ユーザーが担っていると思います。オーダーメードまでは頼まないけれど、手作りの丈夫さと実用性、さらにロゴに象徴されるレディ・メイドの大規模企業にないあたたかみを愛する人たちが、その基礎にいるのではないでしょうか。
 私はたまたま帰国中に昔買ったカバンが壊れてしまったため、またイタリアに行く前に買おうと思っていたので今回のニュースに敏感になっています。だから次に京都に訪れた際はきっと、信三郎さんの新しいブランドのカバン屋さんに行くでしょう。


 でも、もしこのニュースを知らなかったらきっとこれまでと変わらない、知恩院前のお店に行ったはずです。これまでとまったく変わらないクオリティのものが買えればそれでよかったかもしれませんが、新しい信太郎さんの「一澤帆布」で原料の帆布が変わってしまうのならば、まったくその変化に気づかないことはないでしょう。
 信太郎さんに信三郎さん、どちらも裁判中で大変な時期だということはわかります。ただ、お客さんのことをもう少し考えているならば、それぞれのカバンについての現在の立場とこれからの方針をはっきりと示してほしいと思うのは、素人のわがままでしょうか?わからないならわからないということを、はっきりと。


 信三郎さんを応援する会も立ち上がり、義援金の申し込みも受け付け始めていますが、趣意書はメアドや氏名を登録しないと見れない(送られてこない)状態です。よほどの顧客でないと、一口一万円からと言う義援金も信頼できないと思うのですが…。信三郎さん側のサイトであり、しかもRSSに対応しているのならば、信三郎さんの立場を新聞報道以上に説明して趣意書も載せて、ファンとコメントやトラックバックでやりとりをしてもいいのではと思うのです。どうも騒動全体が関係者の方々のなかだけでおこなわれて、おおくの「一澤帆布」ファンが取り残されているような気がします。


 とにかく、これからも丈夫ないい帆布カバンを買うことができるのを、祈ってます。