国際シンポジウム「アウグストゥスの別荘?」

 留学後はイタリアの古代史を学ぼうとしている私。昨日、上野の国立西洋美術館講堂で行われた、「国際シンポジウム『アウグストゥスの別荘?』」と題した国際シンポジウムに行ってきた。
 このシンポジウムはイタリアのヴェスヴィオ山の麓、ソンマ・ヴェスヴィアーナ市で、東京大学を中心として行われている古代ローマ時代の別荘遺跡調査の報告を主体としたもの。プロジェクト・リーダーは国立西洋美術館館長で、古代ローマ美術の日本における権威である青柳正規教授。

 遺跡は大量の火山堆積物で覆われ、当初は紀元79年にポンペイを滅ぼしたヴェスヴィオ山の噴火によってこの別荘も廃棄されたと考えられたが、この3年間の調査で紀元472年の噴火以後廃棄されたものとわかってきたそうだ。
 かなり広大な敷地面積を持ち、多くの円柱、大理石製の酒神ディオニュソス像など、華麗なつくりと装飾を持つことから、古代ローマの初代皇帝アウグストゥスが没した別荘ではないかとも言われている。
 3年目の調査であった2005年度。今回のシンポジウムでは発掘された壁面の保存作業や、今年度調査対象域の電磁波調査結果などが発表されていた。国際シンポジウムなのでイタリア側の研究者の発表もあり、ディオニュソス像の持つ図像的意味合いや、紀元472年前後における異教からキリスト教への地域の宗教観の変化、イタリアの考古学で最近盛んになっている植物の古生態学からみた景観などなど、文献研究がメインの日本の古典古代学ではふだんあまり聞かれない研究成果が発表されていて興味深かった。ただ、通訳の方が学術用語にあまり詳しくなかったようで、とくにラテン語ばかりの植物名でつかえてしまっていたのが残念。


 こうした発表の中でひときわ異色をはなっていたのが、ロンドン大学に留学している方が発表された「ソンマにおけるパブリック考古学」というもの。考古学者の持つ遺跡への認識と一般の人が持つ認識との格差を埋めるためにはどのようなアプローチができるか、という研究らしい。実際、このソンマの遺跡調査では休日に遺跡を一般公開し、2005年度からは日本人の調査員だけでなく、地元イタリア人のガイドボランティアにお願いして解説をしているという。その結果、1500年間人の訪れなかった遺跡で、今を生きる地元の知り合い同士が交流をするという、おもしろい「場」になったとのこと。ただ研究し知識を蓄えるため場でも、観光の場でもなく、新しい人の交流が生まれる場としての遺跡というのは目から鱗の話だった。日本でももっと気軽に発掘現場に入れたらおもしろそう。


 今年の夏に予定されている調査では、さらに広い範囲で発掘を行うようなのでその成果に期待。一般公開の休日に私も行ってみようかな。無事留学できたら…。



Public Archaeology
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